先日、こんな相談を受けました。
ある会社の新入社員。面接では受け答えもしっかりしていて、穏やかで感じのいい人。ところが、入社して数ヶ月たつと、指示したことができなかったり、曖昧な指示だとミスが増えるようになってきた。
「簡単な作業を頼んでも、なぜか思った結果が出てこない。この新人をどう対応したらいいのか?」という相談でした。

「できない」の裏には、理由がある
この新人さんは、精神疾患があるわけではありません。
ただ、もしかすると“発達特性”のような傾向を持っているかもしれません。最近よく耳にする「大人の発達障害」という言葉もありますが、私はそれを“個性”だと考えています。
人は完璧ではありません。ミスがあるのは当然のこと。
大事なのは、ミスが起きたときに「誰が悪いか」を探すことではなく、ミスが重大な問題にならない仕組みを整えることです。
それができる会社は、むしろ強い会社になります。
ミスの背景にある「わかりにくさ」
おそらくこの新人さんは、「何をどう判断すればいいか」が見えにくいのだと思います。この社員はそういう特性を持っている、という事を周りの人たちが認めていくことが大切です。
上司が求める結果のイメージが共有されていなかったり、途中のプロセスを確認できる場がないことで、ズレが生まれている。
つまり、「伝え方」と「聴き方」に課題がある。
上司が指示を出すときに「見える化」してあげる、マニュアルを作る、チェックリストを共有する。そんな地味な取り組みが実は一次予防の第一歩です。
そして、もっと大切なのは、新人さんがどう考えてその結果にたどり着いたのか、間違いを責めるのではなく“思考の道筋を聴く”ことです。
何をどう捉え、どの段階で迷ったのかを一緒にたどっていく。
その過程を理解できたとき、上司や会社が「なるほど、こういう見え方もあるのか」と視点を広げることができます。
「今までの当たり前」は通用しない
今まで大丈夫だった会社は同じような価値観を持つ人たちの集まりで、これまではそれで何とか回ってきたのかもしれません。
でも、それは“たまたま噛み合っていただけ”かもしれない。
新人のミスや違和感は、組織が変化するタイミングを教えてくれるサインです。
それなのに、「忙しいからマニュアルなんて作っていられない」と言って、改善の芽を摘んでしまう。
そうやって“伸び代”を潰してしまうことこそが、今の組織の一番のリスクではないでしょうか。
メンタル一次予防とは、“仕組みで人を守る”こと
一次予防というのは、ストレスチェックや研修をやることではありません。
もっと日常の中にあります。
たとえば——
- 指示が曖昧にならないように仕組み化する
- 一人ひとりの得意・不得意を共有する
- 話を聴く時間を確保する
- フィードバックの伝え方を丁寧にする
こうした小さな積み重ねを「雑にしない」こと。
それが、メンタル不調の芽を摘み、安心して働ける職場を育てます。
若い世代の「当たり前」が変わっている
今の若い世代は、子どもの頃から“個の尊重”の中で育っています。
1人1台スマホがあり、「スマホが私を守ってくれる」のが当たり前。
だからこそ、会社にも“私を尊重し、サポートしてくれる存在”を求めるのです。
もしその期待を裏切るような職場であれば、彼らは迷わず離れていきます。
逆に言えば、尊重される環境を作れば、彼らは圧倒的なパフォーマンスを発揮します。
その違いを生むのが、メンタル一次予防の姿勢です。
“防ぐ”から“育てる”へ
一次予防は、トラブルを未然に防ぐための“守り”ではありません。
むしろ、組織を次のステージへと押し上げる“攻め”の姿勢です。
新入社員のミスや違和感を通じて、会社が成長するチャンスに変えていく。
その柔軟さこそが、これからの時代に求められる“健康経営”の本質だと思います。

企業はこのような対応を求められているのだと思います。
そこで、今一度立ち戻ってみて、労災にならない為の事例を見つめ直してみませんか!?
精神障害の業務起因性の判断要件
1、認定基準の対象となる精神障害を発病していること
2、発病前6ヶ月間に業務による強い心理的負荷が認められること
3、業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発病したとは認められないこと
*厚生労働省(旧:労働省)が 1999年(平成11年)9月14日付け通達 「基発第544号・心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」として公表しています。
労災認定の判断事例
強度1
上司不在で代行、勤務形態の変化、自分の昇進昇格、部下の減少、理解者の異動、上司が変わった、同僚の昇進昇格
強度2
悲惨な事故や災害の体験.多額の損失.達成困難ノルマ、新規事業担当、80時間以上の時間外、2週間連続勤務、顧客の無理な注文、クレーム、仕事の内容量の変化を表示させる出来事、複数名の業務を1人で担当、非正規社員の不利益、セクハラ、転勤、上司や部下とのトラブル
強度3
重度の病気や怪我(後遺症、職場復帰困難)、会社の経営に影響するような重大な仕事上のミス、重大な人身事故、重大事故、退職の強要、ひどい嫌がらせ、いじめまたは暴行を受けた。
【まとめ】
メンタル一次予防とは、
- 一人ひとりの「わかりにくさ」に寄り添う
- 組織の「当たり前」を見直す
- 仕組みと対話で人を守る
この3つを丁寧に積み重ねることです。
派手ではないけれど、確実に職場を変えていく。
それが、社員を守り、会社を強くしていく最も現実的な方法です。

