無断欠勤が続き連絡が取れない従業員への対応
企業のリスク管理と適切な対応のために
近年、「退職したい」と自ら会社に申し出ることができず、退職代行サービスを利用したり、家族から会社へ連絡が入ったりするケースが増加しています。こうした背景には、メンタル不調、職場での人間関係、また社会的孤立など、従業員側の多様な事情があると考えられます。
一方で、企業としては「無断欠勤が続き、本人とも連絡が取れない」という状況に直面することもあり、対応に苦慮する場面が少なくありません。本記事では、労働契約や就業規則に基づいた法的観点と、企業の健全な組織運営を両立するための実務的なポイントを整理します。

1.第三者からの退職連絡は有効か?
退職代行業者や家族など、第三者から「本人の意思により退職したい」という連絡があった場合、その背後に従業員本人の意思があることが確認できれば、手続きの進行は可能です。例えば、退職届のPDFが本人からメールで送られてくる、署名入りの退職届が郵送されてくる、というように「本人の意思が明確に確認できる」状態が求められます。
しかし、これが確認できない場合や連絡自体が一切取れないケースでは、企業としても退職手続きを一方的に進めることは難しく、慎重な対応が必要です。

2.雇用契約終了の3つの形態
雇用契約の終了には、以下の3つのパターンがあります。
◆ 合意退職
労使双方が話し合いの上で退職に合意した場合。この場合、終了日は自由に決められ、法律上の制限もほとんどありません。
◆ 解雇
使用者(企業)側から一方的に契約を終了する場合。原則として30日前の解雇予告または30日分の解雇予告手当が必要です。また、即時解雇を行う場合でも、就業規則に即した「懲戒解雇」要件を満たしているか慎重な判断が求められます。
◆ 辞職
労働者(従業員)側が一方的に退職を申し出る場合。民法627条第2項により、原則として退職の意思表示から2週間で雇用契約は終了します。企業側の承諾は不要で、法的制限もありません。

3.連絡不能・無断欠勤が続く従業員への実務対応
「連絡が一切取れず、無断欠勤が続いている」という状態では、本人の退職意思すら確認できないため、即時の解雇は適切ではありません。
こうした場合は、以下のステップで対応することが重要です。
● 対応の履歴を記録
・メール、電話、SNS、手紙など、連絡を試みた証拠を残す。
・出勤状況や欠勤期間の記録。
・緊急連絡先や身元保証人への連絡状況。
※後々のトラブル防止のために、記録は必ず残しておきましょう。
● 安否確認と法的対応の準備
・緊急連絡先や家族への安否確認。
・職場の安全衛生委員会や人事部門で対応方針を協議。
・社労士や弁護士への相談も検討。

4.就業規則に「自然退職」規定がある場合
就業規則に「正当な理由なく14日以上無断欠勤した場合は自然退職とする」などの記載がある場合は、期日を経過することで自動的に退職扱いとすることが可能です。
この場合でも、念のため以下の対応をおすすめします:
・「自然退職扱いとする旨」を記載した文書を内容証明郵便で本人宛に送付
・就業規則の該当条文を明記した通知文の作成
・退職届の提出を要しない処理とする一方で、社会保険や離職票等の手続きも行う

5.就業規則に規定がない場合
「自然退職」や「懲戒解雇」に関する記載が就業規則にない場合、以下の民法の原則に従う対応が考えられます:
無断欠勤の初日を「解約申し入れ日」とみなし、2週間経過後に辞職として処理
あるいは、無断欠勤初日をもって即時の退職意思があったと解釈し、同日付で退職処理
ただし、本人の退職意思が不明なまま進めることになるため、できる限り慎重な対応が求められます。最もトラブルの少ない方法は「2週間待ってから自然退職として処理する」方法です。

6.対応ルールの明文化を
無断欠勤による連絡不能の事案は、感情的な対立や法的トラブルに発展するリスクがあります。そのため、以下のような点を含めた就業規則の整備が極めて重要です。
「〇日以上の無断欠勤があった場合は自然退職とみなす」
起算日は「最終出勤日」または「最終連絡日」など明確に
雇用契約終了の形式(自然退職/懲戒解雇/辞職)の判断基準を明記

7.健康経営の観点から見た「飛んだ社員」への向き合い方
無断欠勤が始まる前に、すでにメンタル不調や職場適応困難が進行していた可能性もあります。「突然来なくなった」社員が実は長期間悩みを抱えていたというケースは少なくありません。
企業としては、こうした事態を未然に防ぐ仕組みづくりが求められます。
たとえば、
・定期的な1on1ミーティング
・ストレスチェックの実施とフォロー面談
・外部カウンセラーやメンタル相談窓口の設置
・企業健康経営サポートサービスが提供する「オンライン相談サービス」
などを通じて、従業員の変化にいち早く気づく体制を整えることが、健康経営の基盤になります。

最後に
無断欠勤が続き、連絡が取れなくなる従業員への対応は、企業としても心を痛める出来事です。しかし、そのようなケースこそ、就業規則の整備や記録の残し方、対応の丁寧さが問われる重要な局面です。
企業健康経営サポートサービスでは、企業の健康経営を支援する立場から、こうしたケースへの実務的なアドバイスや、社内体制の整備、就業規則の見直しサポートも行っています。従業員の心の健康を守りながら、企業のリスクも最小限にするためのサポート体制をご用意しています。
「突然来なくなった」に、慌てず、迷わず、しっかりと対応できる企業へ。